ひと昔前……、僕のアトリエが西麻布にあって、よく通っていたインド料理店の主人が教えてくれたレシピが、これ。インド人の彼はコックというよりケミストに見えた……。実際やってみる。ターメリックを溶かした油を加熱して、卵を加えると、ただ黄色く着色した状態で卵炒めができる。納得いかないまま飯を加え、塩で味を調えて、調理を進めていくと、米は黄色のままなのに、卵はどんどん赤みを増してくる。フライパンの中の素材がパラパラに、サラサラになったら指の爪位の大きさに切っておいた赤玉ねぎを放り込み、すぐにガラムマサラを加えて火を止める。玉ねぎは炒めない。水が出るから……。で、ガラムマサラは火を止めてから振り込んで、フライパンをあおって混ぜ合わせる。……そんな感じ。
料理人は、ターメリックは苦いという。ガラムマサラは甘いという。玉ねぎも甘い││特に赤玉ねぎは甘い││仕上がりに全体を覆うミントの葉はもちろん甘さを強調する。苦味と甘味三様。「もしも胡椒を加えたければ、早い段階で入れとけよ」これも料理人のアドバイス。胡椒は辛いだろ。ガラムマサラとは合わない。入れるなら早く入れて火をしっかり通して辛みをとるようにするんだ……。はいはい、わかりました。胡椒はやめときます……。
全体をミントの葉で覆うのは、実は僕のアイデア。インドではもしもこういう使い方をするならコリアンダーの葉を使う。香菜のこと。でも絶対僕は迷わずミントさ。それも飾りとしてじゃなくて、バリバリ食うための素材として……。
食った感じを言葉にすればこんな感じだ。素材はすべて同じ位の大きさだから全体にふわあっと軽い感じなんだ。何も考えないでスプーンでたっぷりとって口に運ぶ。まず苦味だよ……。それから鼻にぬけるミントの香り。そして時々シャリッと歯ざわりと共に舌にしみる玉ねぎの甘み。水っぽさ……。まぁそれだけのことなのだが、苦味をおさえるために、ターメリックの量をもう少し控えてもいいかもしれない。甘味三様の背景として、飯にもっとしっかり塩味を与えておいたほうがよかったかな。などなど、シンプルなレシピのはずが、難しいのである……。ケミストリーか……。
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Hiroshi Soeda / 建築家
東京芸術大学美術学部建築科卒業、同修士取得。住宅設計を中心に活躍。パリ、ウィーンなどで歴史的建築のレストレーション・プロジェクトにも参加。最近手がけた三井不動産レジデンシャルのプロジェクトに、「パークタワー池袋イーストプレイス」などがある。
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