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ヴォーリズが愛した近江八幡、和と洋の幸せな出会い
vol.1―ヴォーリズの家
Shiga
Text=Madoka Tainaka/Photographs=Naruaki Onishi
前田邸のダイニング 前田邸のリビング
前田邸のダイニング 前田邸のリビング

前田邸のダイニング。左手の戸棚の下には小窓があり、キッチンとつながっている。コンパクトだが使い勝手のいい食卓だ。

前田邸のリビング。ヴォーリズ自身もときどき訪ね、くつろいだ。サロン演奏会を開いたこともあるという。暖炉や丸窓に、曲線を好んだヴォーリズ建築の特色がよくあらわれている。

キッチン入口の照明 大理石の花台

日々の暮らしに彩りを添えるキッチン入口の照明。

星形の模様がはめ込まれた大理石の花台。

玄関から続く階段
玄関から続く階段

玄関から続く階段。ランプのガラスの凹凸や木の柱の仕上げなど、細部にまでこだわりが。

前田邸 ヴォーリズの家
前田邸 ヴォーリズの家
ヴォーリズとその弟子の愛情溢れる住まい

 1905(明治38)年、ヴォーリズは英語教師として来日、近江八幡の地を踏みました。その志はキリスト教の伝道にあって、社会教育や出版、医療、近代産業の振興など、幅広く精力的に活動する一方で、北は北海道から南は九州までミッション・スクールや教会堂など千数百もの建築をつくり、建築家として大きな業績を残したことはよく知られています。
  そうしたなか、ヴォーリズが「世界の中心である」といって愛し、理想郷とした近江八幡には、住宅を含む24の建築が現存しています。
  ヴォーリズが多作なのには理由があります。京都で建築事務所を開いたヴォーリズは、多くの所員を育て、彼の理想とする住まいの形をあますことなく後進たちに伝えていったのです。近江八幡の市街地の外れ、田園風景のなかに建つ前田邸も、そうしたヴォーリズの薫陶を受けた愛弟子の住宅の一つ。
ヴォーリズ建築事務所の設立当初からの所員として、「立体芸術の天才」と期待された佐藤久勝氏の自邸としてつくられたものです。大丸心斎橋店や現・大丸ヴィラなどの設計を手掛けた佐藤氏の装飾デザインへのこだわりと、「用の美」を追求しつつも住まい手への思いやりを大切にしたヴォーリズの住宅に対する思想が融合した実に美しい住宅です。
  竣工は1931(昭和6)年。実は、この家の主となるはずだった佐藤氏は自邸の設計に全身全霊を傾けましたが、竣工からわずか数週間、41歳という若さで急逝してしまいます。この家を引き継いだのは、佐藤氏の親友で同じくヴォーリズ建築事務所の所員だった前田重次氏。現在は、その御子息の前田典夫さんがお住まいです。前田さんご自身も、ヴォーリズの晩年、数年間ほど、私設秘書として日常を共にされたといいます。
  「ヴォーリズは温厚でやさしくて、とても真面目な人でした。佐藤氏のことは覚えていませんが、父とは大の親友で、まだ幼かった私のことをとても可愛がってくれたそうです」と前田さん。
  その家の表情からもまた、二人の建築家の誠実な人柄と愛情溢れる人間味が伝わってくるようです。

外観
外観
外観
外観

その外観は、森の中に建つ山荘の趣き。玄関までのアプローチの両脇に立つヒマラヤ杉は、前田さんと妹さんが生まれた時にそれぞれ植えられたもの。建物は、1998年に文化財登録された。

前田典夫さん 玄関扉 オランダ製のタイル

前田典夫さん。

この家のデザイン・アクセントである星形のモチーフが、玄関扉に象徴的に用いられている。

 

壁面の随所を飾るオランダ製のタイル。

洗練のデザインと機能美が古さを感じさせない

 その佇まいはお伽話に出てくる家のように、デザインの遊び心に溢れています。敷地の中、まっすぐにのびる緑のアプローチの先に覗くのは、スパニッシュ・スタイルの家。表情豊かなスタッコ仕上げの白壁や赤煉瓦の縁取り、オレンジ色の屋根がとても印象的です。しかし驚きは、むしろ内部にありました。
  玄関ホールに入ると、目を奪われるのが、階段とその手すりを受ける、幾何学模様のはめ込みが美しい大理石の花台、そしてもう片方の手すりにつながる卍のデザインの大きな灯具。壁や装飾タイル、工芸品のような照明器具など、すべてに手仕事の温もりが宿っています。暖炉のあるリビングには、ステンドグラスの飾り窓やポーチがあり、表情豊かで飽きることがありません。ダイニングは4畳半とコンパクトですが、まるで豪華列車の食堂車のように瀟洒で、使い勝手がいいことに気づかされます。
  「今の日本人にはやや小さく感じられるかもしれませんが、ヴォーリズはつねに日本人の小柄な体格と生活様式、そして風土に適した建築を提案していました。単なるツーリストとしてではなく、近江八幡という地に根を下ろすことで、ヴォーリズは西洋と東洋のそれぞれの良さに通じ、建築を通して住まう人々に尽くしたいと考えていたのです」。
  建築物の品格は、人間の人格のごとく、その外観よりも、むしろ内容にある≠ニいったヴォーリズの言葉の通り、その住まいの内部は、そこに暮らす人の目を楽しませ、癒し、ときに思索に誘う工夫に溢れていました。

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